CDレビュー:『Mujika Easel/海辺より』

Mujika Easel/海辺より
【※前作に引き続き、Mujika Easelのアルバムのレビューを書いたので、ここに掲載したいと思います!!】
Mujika Easelの2ndアルバム、『海辺より』を聴いて、僕がまず一番最初に思ったのは、「あ、これ、わかりやすくなってる!」ということでした。前作『Love & Realism』の「Foolish Woman」みたいな曲にあったシンガーソングライター路線をさらに押し出しているというか、そこだけ強調しているというか、まるでMujika EaselというバンドのボーカリストであるMujika Easelが、バンドの空き時間にこつこつ録音したものをソロアルバムとしてリリースしている、それくらいの一極集中性、ジャンル音楽感というものを感じました。まるで映画のサウンドトラックというか、おとぎ話を音楽化したストーリーアルバム、コンセプトアルバムというか、そういう昔のプログレロックバンドや、現代のドリームシアターみたいなプログレメタルバンドの作品を聴いているみたいな感覚に陥りました。うん、このアルバムは絶対にコンセプトアルバムだと思います!
もっともコンセプトアルバムといっても、音楽をやっているのがMujika Easelなので、全体的な音楽の感触、感想としては、やっぱりああ、これはMujika Easelの音楽だなあ、というものなのですが、それが1つの均一的な何かしらのコンセプトなり、テーマなりで1つのパッケージの中に封印されているという感じがあるので、それによって前作にはなかった統一感なり、1つの側面だけが強調されているような感じがして、コントロールされているアルバム、CD1枚1曲みたいなアルバムみたいな感じがしているのだと思います。なんというかシガーロスのヨンシーのソロとか、ラブ&ロケッツの『Sweet L.A.』みたいな、そういう○○の才能がある人が、ちょっといろんなことに手を出しつつも、結局巡り巡って同じことをしていたみたいな、そういう雰囲気のするアルバムです。
おそらく、このアルバムのコンセプトというのは、手紙とか、そういうものの感じに近いのだと思います。というのも、まずこのアルバムはCDが手紙の封筒みたいなものに入れられた仕様の装丁になっていて、その封を切って、代わりにビデオレターならぬCDレターを聴くみたいな感じが、たぶんそういうコンセプトを意味しているのだと思います。タイトルも『海辺より』というふうになっているので、たぶん海辺さんという人か、海の海辺か、どちらからこのアルバムをお送りしますというニュアンスがあるのだと思います。そしてその手紙という、人から人へ直接渡すもの、個人的な通信手段みたいな程で、これまで通りのMujika Easelの音楽を伝えてみるということが、このアルバムの一大コンセプトなのではないでしょうか??最初はこう、海辺を舞台にしたストーリーものなのか?とか、そんなエイリアン・・・『深海からの物体X』みたいな・・ああいうディストピアSF(深海~はそんな映画が堂々と製作されてるこの世界がディストピアみたいなそういう気持ちにさせてくれるすばらしい作品でした)的な荒廃感、モノクロ全面一色感を感じていたのですが、どうもそういうわかりやすいようなわかりにくいような感じではなかったようです。一応波の音のフィールドレコーディングが延々聴こえる「Y.」という曲もあるので、コンセプトに海辺より、というものを強く意識されていることは間違いないのですが、どこかこれは情景的というか、そういう手紙感をより一層聴き手に意識させるための演出なのかな、という気がします。メッセージ・イン・ア・ボトルみたいな、ジャッキー・チェンのわりとラブストーリー主軸の映画でもメインに使われていた、ああいう波をたゆたって漂着していくる、そういうものの感じもかもし出したいのだと思います。
ただ、そのようにコンセプト的なものを設定することで、このアルバムが若干前作よりもスケールの小さい、こじんまりとしたものに聴こえてしまうことも事実です。というのも、上にあげた「Y.」(今思い出したんですがこの曲は別にスピッツのカバーではないです・・)という波の音がただただ聴こえてくるだけの曲や、Mujika Easelの朴訥とした語りで始まる「Prelude」なども、あくまでアルバムを1枚1曲として捉えて、そのうちの楽章的なものとして聴くことでようやく身にしみるような曲なので、どうも1曲1曲の破壊力というか、そういう点では前作に劣ってしまうところがあるように思います。曲というよりは受け手の印象度に差が出るというか、そういう構成のアルバムになってしまっていることは否めないし、そこはこういうコンセプトアルバムに付きものの、おなじみの弱点をこのアルバムもしっかり持っている、という感じだと思います。アルバムを丸々1枚1曲として聴くことでようやくよさがわかるアルバムなので、たとえば普通のいろんな曲が順序で並んでいるようなアルバムを聴いているときの、「この曲がいい!」みたいな、パッと頭の中で今聴いている音をピックアップして、そこだけ(曲という単位で)リピートする、といった作業がしづらいという問題も挙げられます。これは僕が高校のときのエピソードなのですが、その当時いつも繰り返し聴いていたドリームシアターの『メトロポリス 2000』というアルバムの、一番自分が感動するところが後で聴こうと思っても全くどの曲かわからない、ということがしょっちゅうありました。結局どの曲に感動したのかはわからなくなったままドリムシも聴かなくなり、今やCDも全部売り払ってしまったのですが、なんかそういう、1曲1曲が・・という感じがないのが、このアルバムのなんともおしいところだと思います。
もちろん1曲1曲が・・な曲もあるのですが、そういう曲の合間に先のアルバムに統一感を持たせるための演出が挟まってしまうために、そういう曲も全体の中の部品になってしまって、なんだかYoutubeに上がってるその曲だけ聴くのがいい、という感じになってしまうのです。
また、これは僕が勝手に思っていることなのですが、基本的に1曲1曲がモノスゴいクオリティのMujika Easelがこのように、いきなりアルバム全体でどう、という視点にたって、オーケストラの指揮する人みたいな感じでああだこうだやる、というのがまた、僕が上のほうで書いた「バンドのボーカルのソロ活動みたい。」というような感覚の原因になっていて、1曲1曲でそれぞれ、その曲の中に独自の世界を作り上げるというよりは、なせばなる、音を出せば鳴るみたいな感覚で演奏を放出していたMujika Easelが、このように曲ごとではなく、あくまでアルバム全体という視点には立ってはいるけども、全体の構造や世界を考えてやってしまったことによって、このような狭い、本当にボトルに入りそうな大きさの、音楽世界が出来上がってしまったのではないでしょうか。
もっとも狭いとか小さいというのは、手紙の本質だと思います。本質というと偉そうですが、なんかこう、僕の中にある手紙を読むというイメージには、大きくてB6くらいの紙が折りたたまれているものが紙の中に入っていて、それを軍に入っている男が寝転がって広げて読むみたいな、韓国映画のそれがあって、このアルバムをボトルに入ってどこかの海辺から漂着してきたカセットテープなのだとすれば、それくらいのイメージの広がらなさで正解なのかな、という気もしないでもないです。海から来たものには、海から来たんだというイメージ以上に一番強いイメージが現れないというか、海から来てる時点でそれくらいの衝撃がまずあるので、それを越える衝撃はどれだけその中の手紙を読んでも心に残らないというか、それくらいの『海辺より』というタイトルが持つアクの強さが、このアルバムを支配してしまっているようにも感じます。
実際僕はこのアルバムを最初から最後まで聴いて、前作と同じような感動は得られませんでした。このアルバムにあるのは前作とはまた違ったタイプの感動(ここでいう感動とは「音楽いいな!」という感動であって、別になだそうそうみたいな話ではない)です。前作にあった自由奔放さや、天真爛漫な音楽が放出されてる感じがここにはなく、なんだかちゃんと何を流すか考えたものを完成させたあとで海に流したような、メッセージを流すことにモロモロの、やむにやまれぬ事情があったのではないかと察してしまえるくらいの、そういう曇天の海辺、漂着物まみれより、みたいな感覚があります。けれどもアルバムとしてじゃあどっちが好きか、聴きやすいかといわれると、・・・・・僕は実は1stアルバムよりも、この2ndアルバムのほうが圧倒的に聴きやすくて、単純に聴いてていいなあと思えるので好きだったりします(笑)1stは気分が落ち込んでいるときとか、物事に集中したいときとか、そういうときに正座して、シャキッとしないと聴けないようなマジ感があるのですが、こちらのアルバムはそれを維持しつつも、どこかくだけたというか、手紙というそこには本人はいないよ形式からの、見てないんだしあぐらでもいいかなくらいの気を抜ける感じがあって、その音楽の髣髴とさせるどこか冷たい地方の大昔の無声映画、戦場のピアニストのポスターの崩れた瓦礫のいっぱい散らばってる光景とか、そういう雰囲気を自分が好きだということも相まって、頭の中で勝手にストーリーを作って、そのサントラとしてバックで延々流すというスタイルで聴けるという点がいいなと思っています。きっと作られた動機はシリアスなアルバムなんだけど、僕はシリアスには受けとめなくてもいいんじゃないかみたいな、そういう、手紙だからいいや感がすごいあります。この手紙だからいいや感がまた、「ソロ活動してる感じ」に言い換えることができる言葉なのだと思います。
いずれにせよ、なんだか最後のほうで思いっきり安っぽいレビューになってしまった気もしないでもないですが、Mujika Easelをはじめて聴く、という方にはかえってオススメの、入門にはもってこい!のアルバムです。入門というか、聴きたい人はまずこれを聴いてくださいみたいなサンプル音源というか、とにかくそういうふうに、あぐらをかいても聴けるアルバムです。だからこう、これまでのMujika Easelのアルバムを聴くことが、色塗りたての絵を紙ごと渡される感じだとすれば、これはちゃんと乾いて、こっちの手で絵が汚れないようにちゃんとコーティングして額に入れたものを、なんとなればコピーを渡してくれているといったような趣。さながらどこかの海辺でバカンス中のMujika Easelからのお便りというか、黒ヤギさんみたいに食べてもOKみたいな作品になっていると思います!
※このアルバムもやっぱり、装丁がいい!!ここまで装丁にまでこだわられたら、そりゃ作品全体のコンセプトもわかろうというもの。そういうパッケージの手軽感もまた手軽に聴ける要因なのかもしれない・・坂本龍一のデジパックのCDみたいに経年劣化で色がきちゃなくならないことだけを祈ります!!タバコ吸わないから多分大丈夫!!
※現在bandcampのダウンロード販売でアルバム全部で1000円で購入できるようです!!
(なおアルバムは全8曲46分という、いたって普通のサイズのほどよい長さのアルバムです。)
Bandcamp
なおitunesでは取り扱いがないようです!!
※CDは以下のところで買えます!!
Shop ※『海辺より』の手紙状紙ジャケ装丁画像がみれます!!
Amazon
HMV
discunion ※現在在庫なしだそうです!!
他のところでも多分買えます!!
前なんばと梅田のタワレコにおいているのは見つけました!!
西田辺レコード会 会長 つかまるところ
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